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「おもしろ小話 ア・ラ・カ・ル・ト」

2022/11/10
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---【おもしろ小話 ア・ラ・カ・ル・ト】---

 <A> 世界編
 <B> 日本編
 <C> スタジオ編

 

ボイストレーニングアカデミー


『世界の話語声研究書』  

  主催 髙麗(こま)みちこ 著

<きき耳ずきんのボイストレーナー 俳優 演出家>

話し声・話語声専門ボイストレーナー

世界60か国以上の現地調査の旅から―

 

B-<1> 「牛と羊」  

ー時代変化の断層の中でー 

                 2022年11月9日】

 突然、3、4本の流れ星が、私の右膝あたりから左肩の先へ、まるで坂を上るようにキラキラと光りながら走って行った。

それは今年の9月末のことだった。

ここはデパートの靴売り場
たくさんの靴がガラスケースの中や上に並んでいる。
ここ3年近くコロナのせいで、気の張るようなところへ出かけなかった私。
安さと自宅に届けてくれる便利さに、ほとんど通販で安い靴ばかりを買っていたのだった。

 そしてついこのところコロナがいくらか和らいだので、しばらくぶりにデパートへ、少し品物が良く礼装にでも履いていけるような靴を買おうと思い、やって来たのだった。

-----その時だった。顔見知りの女店員さんが、何足かの靴を両腕に抱えてやってきて、ショーウィンドウの上にそれらを置こうとしたその時、突然流れ星たちが走って行ったのだった…‥。


びっくりしてよく見ると、女店員さんの腕の中には、何足かの光り輝く靴が抱えられている。形はみんな足首の少し上までの短いブーツのような形で、やたらにキラキラと光っている。
そして彼女がおもむろにこう言った
 「これ、みんな羊革の靴…‥なんですよ」
 「えー……?」と驚く私に彼女は言った。
 「このところ急に羊革の靴が入荷しまして…‥」
 彼女はガラスケースの上にそれらを並べながら
 「急に大手の靴屋さんが撤退しましてね」と言って、以前から売っていた有名な大手の靴メーカーの名前を、立て続けに5,6店挙げたのだった。
 私はびっくりした。 前から気に入っていた神戸の方のメーカーの靴屋さんの飾り棚の中も、みるとまったく別のメーカーの靴に変わってしまっていた。

 確かにコロナ騒ぎが続き、いろいろな業界のお店や飲食店などが、お客が減って大騒ぎになっており、いろんなお店が閉店している現状で、そこに物価の値上がりなどが拍車をかけている現在、大変な世の中になっていることは確かであった。

 ―そしていよいよ、こんなにももろに!!

今まで革靴といえば、牛革と決まっていたのに、不況にあわせてあまりにも急に一斉に羊革の靴にとって代わるなんて、と私はショックだった。
 つい一週間ほど前にここへ下見に来た時は、立派そうな牛革の靴がたくさん並んでいたのに。 本当に革靴と言えば、疑いもなく牛革の靴に決まっていたのに!!

 聞けば今は、靴売り場の約1/4程が羊革の靴になったのだという。

 その時、女店員さんが優しい声で言った。

「皮が柔らかいし、軽くてとっても暖かいんですよ」
 よく見るとどの靴も外側にだけは小さなガラス状の光る石がたくさん埋め込まれている。
片足でも20個以上埋め込まれてキラキラと光り輝いている。
 そしてガラスケースの上に載せられた靴は、まったくみんな同じようにブーツ型で全部光る石が埋め込まれていた。

「私の歳でこんな派手な靴を? …これじゃぁまるで、若い人たちのAKB48みたいじゃありませんか。」

 「いいと思いますよ。」

「…無理よ!!」と言った。

 帰ろうとした時、彼女が更に言った。
 「軽くてやわらかくて暖かいですよ、雨もはじくし…1足1万7千円です。」
 急に私は思った
 「安い! 少し派手だけどこれならば、秋から冬、春まで……いやもしかしたら一年中、履けるんじゃないか、値段も牛革だったら3万円近いだろうけど… これは得だ!!」
 そして私は言った。
 「これ買います!」
 礼装には向かないけれど、そっちは古い靴はまだ履けるだろうし…!」


 -----急に光る靴が私の方を見ている気がした。-----

 「この年で、AKB48のつもりで履いて歩きまわるのもいいだろう!!」


 そして、心の中でつぶやいた

「なんてケチなの私って!」

-----その時、目の前に何かが立ちはだかった気がした。-----

 それは、固くて黒っぽいザラザラした岩の壁だった。

断層のようだった。
「今、私ははげしいコロナの時代の変化の真っただ中で、時代の断層に立ち会っているんだな」と。

 ―そして……また、3、4本の流れ星が、ゆっくりと眼の前の坂を昇っていく行くのを、見たような気がした。

 私は、それを美しいと思った…。

 

-----それから私は毎日のように、AKB48気分で、その靴を履いて歩いている。-----

 

コロナ禍が一日も早く、なくなるように祈りながら……。-----