BLOG
2009年8月15日 声をたずねて世界旅《アメリカ編》1
2009/08/15

――ああ、その村のことを思い出す時、私はいつも、「水槽の村」と呼んでしまう。
水槽といっても中に水が入っているわけでもなく、水中とか、海中とかにあるわけでもない。
それは、北アメリカの北限の地、アラスカのツンドラ地帯にある厳寒の地の、巨大なガラスの水槽の中に、隔絶されたような、温泉のある村、チェナ村のことである。
正確には、チェナ・ホットスプリング・リゾート村というらしい。唯一他の温泉施設と違うところは、そう、オーロラを観測するためのスペースが、大きくとってあるということだ。つまり「オーロラの村」とも言えるのだ。
――そして、その鋭いナイフで刺すような、冷たく澄みきった空気の、凍りついたような大きな水槽の中を、赤と青の二色の防寒具をまとった人々が三々五々とゆっくりと歩く。
地にへばりつくように、冷たく広がっている、凍りついた真白な雪の原野の木立の中を。
そして、そして、零下40数度の気温の中を・・・・・・。
それはちょうど、宇宙服を着たNASAの飛行士達が、宇宙船から下りて来たばかりのようにゆっくりと、のろのろと・・・・・・。
それはまた、水槽の中の金魚達が、のんびりと水草のエサでもついばんでいるようでもある。その鈍い動きは、10kg前後もある重い防寒具のせいだ。
この地では、それ無しには絶対に生存できないような、ぶ厚い防寒具。レンタル会社の青と赤の、二色しかない防寒具のせいで、金魚たちは、その二通りの色しかないのだった。